大阪大学 産業科学研究所 複合知能メディア研究分野

光学的解析

反射特性・散乱特性の計測や解析

亀甲多面鏡を用いた半球状共焦点撮影

本研究は,3次元シーンの特定の奥行きだけを鮮明に撮影する半球状共焦点撮影と呼ぶ新しい撮影手法を提案する.提案手法で重要な役割を果たす光学系は,亀甲多面鏡と呼ぶ楕円体に外接する多面体鏡である.撮影装置はこの亀甲多面鏡に,光軸を一致させたカメラとプロジェクタを組み合わせたものであり,対象物体を取り囲む半球上に多数のカメラとプロジェクタの組を仮想的に配置することができる.本装置を用いることで,半球上から特定の奥行きのみに高周波パターンを投影可能であるため,対象奥行きだけを照明したときの直接反射成分のみを取り出せる.また,その反射を多視点から計測できることから,マスキング項,減衰項,テクスチャ項に因子分解することで,部分的に遮蔽されたシーンの観測像を鮮明化できる.試作機を用いた実験により,部分的に遮蔽,散乱を起こす物体で隠されたシーンにおいて,特定の奥行きのみを照明し,散乱や減衰による影響を除去できることを示した.

発表
  1. Y.Mukaigawa, S.Tagawa, J.Kim, R.Raskar, Y.Matsushita, and Y.Yagi, “Hemispherical Confocal Imaging using Turtleback Reflector”, Proc. ACCV2010, pp.331-344, Nov. 2010.[PDF][Presentation]
  2. 田川聖一,向川康博,金宰完,ラメシュラスカル,松下康之,八木康史, “亀甲多面鏡を用いた半球状共焦点撮影”, 画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2010), Jul.2010.[PDF]

散乱媒体中の光線空間の解析

本研究では,散乱媒体中で光がどのように伝播していくかを解析する方法を提案する.散乱媒体に入射した光は,内部で散乱を繰り返し,複雑な光線空間を作り出す.本手法では,この散乱光のライトトランスポートを2段階に分けて解析する.まず,高周波ストライプパターンの投影によって,入射光を単一散乱と多重散乱に分離する.次に,ライトトランスポート方程式に基づいて,多重散乱を各反射回数ごとの成分に分解し,それぞれの成分に対応する光線空間を再帰的に推定する.実験により,均一な散乱媒体中でのライトトランスポートを,各反射回数ごとに分解し可視化できることを示した.

受賞
  1. 第13回 画像の認識・理解シンポジウム MIRU2010,優秀論文賞 “散乱媒体中のライトトランスポートの解析”, 向川康博,ラメシュラスカル,八木康史,2010/7/28受賞.
発表
  1. Y.Mukaigawa, Y.Yagi, R.Raskar, “Analysis of Light Transport in Scattering Media”, In Proc. CVPR2010, June, 2010.
  2. 向川康博,ラメシュラスカル,八木康史, “散乱媒体中のライトトランスポートの解析”, 画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2010), Jul.2010.

反射・散乱特性に基づいた肌の統計的解析

人間の肌の特徴は年齢や性別によって異なる.本研究では年齢や性別によって異なる肌の特徴を約1000 名分の幅広い年代から得た大規模データベースを基に統計的に解析することで,肌に入射した光の反射・散乱特性が 個人によってどのように異なるのかを調べることを目的とする.肌は半透明であり,肌への入射光は,表面で反射す る反射光と肌の内部に入り込む散乱光の性質の異なる2 つの成分に分かれる.まず肌を撮影した画像を反射光成分と 散乱光成分に分離し,両成分の比率を調べることで主に透明さを解析する.さらに反射光成分を拡散反射と鏡面反射 に分離し,鏡面反射の強度を調べることで主に肌の脂っぽさを解析する.実際に肌の特徴を計測するために3 台のプ ロジェクタと2 台のカメラからなる計測システムを構築し,幅広い年代の男女の肌データを計測した.計測したデー タを用いて反射光と散乱光から特徴量を抽出し,性別や年齢の違いによる肌の特徴を統計的に解析した.

発表
  1. T. Mashita, Y. Mukaigawa, Y. Yagi, “Measuring and Modeling of Multi-layered Subsurface Scattering for Human Skin”, HCI International 2011, Organized Session, July 2011.
  2. 馬場葉子, 向川康博, 八木 康史, “化粧と肌の2層構造からなる化粧肌反射特性モデル”, 第13回 画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2010), 7月, 2010.
  3. 馬場葉子, 間下 以大, 向川康博, 八木 康史, “大規模データベースを用いた肌の反射・散乱光の統計的解析”, 第12回 画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2009), 7月, 2009.
  4. 馬場葉子, 間下以大, 向川康博, 八木 康史, “反射・散乱特性に基づいた肌の統計的解析”, 情報処理学会研究報告, 情報処理学会, no.2009-CVIM-167, 京都, May, 2009.

ダイポールモデルに基づく表面下散乱の解析

半透明物体では,表面下散乱と呼ばれる媒質内部における光の散乱が発生する.本研究では,媒質が均一な半透明物体を対象とし,一般照明下で撮影された画像から,表面下散乱を解析する手法を提案する.提案手法では,物体表面をパッチで表現し,その距離を量子化することで,表面下散乱モデル中の散乱項を線形的に推定する.その散乱項にダイポール近似モデルを当てはめることで,対象物体の表面下散乱を解析する.実際に撮影したいくつかの半透明物体に対して本手法を用いることで,各表面に入射した照度と観測された放射輝度,対象の形状から,表面下散乱パラメータを推定した.

受賞
  1. 第11回 画像の認識・理解シンポジウム MIRU2008,MIRU長尾賞 “一般照明下での表面下散乱の解析”, 向川康博,鈴木和哉,八木康史,2008/7/30受賞.
発表
  1. Y.Mukaigawa, K.Suzuki, Y.Yagi, “Analysis of Subsurface Scattering based on Dipole Approximation”, IPSJ Transactions on Computer Vision and Applications, vol.1, pp.128-138, Sep., 2009.
  2. Y.Mukaigawa, K.Suzuki, Y.Yagi, “Analysis of Subsurface Scattering under Generic Illumination”, In Proc. 12th Sanken International Symposium, Feb., 2009.
  3. Yasuhiro Mukaigawa, Kazuya Suzuki, Yasushi Yagi, “Analysis of Subsurface Scattering under Generic Illumination”, In Proc. of the 19th Int. Conf. on Pattern Recognition, Tampa, Florida USA, Dec., 2008.
  4. Y.Mukaigawa, K.Suzuki, Y.Yagi, “Analysis of Subsurface Scattering under Generic Illumination”, In Proc. MIRU International Workshop on Computer Vision 2008, July, 2008.
  5. 向川康博, 鈴木和哉, 八木康史, “一般照明下での表面下散乱の計測”, 電気学会 一般産業研究会, GID-08-21, pp.45-50, Nov., 2008.
  6. 向川康博, 鈴木和哉, 八木康史, “一般照明下での表面下散乱の解析”, 画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2008), pp.63-70, July, 2008.
  7. 鈴木和哉, 向川康博, 八木康史, “半透明物体に対する表面下散乱モデルの当てはめ”, 情報処理学会研究報告, 情報処理学会, no.CVIM 161-47, pp.317-324, Jan, 2008.

楕円鏡とプロジェクタを用いた高速BRDF計測システム

物体表面の反射特性を表す双方向反射率分布関数を密に計測するためには,様々な角度から照明した場合の反射光を様々な角度から計測する必要があるため,膨大な時間が必要であった.本研究では,楕円鏡とプロジェクタを組み合わせることで,高速に反射率を計測する手法を提案する.楕円鏡の一方の焦点に試料を配置し,もう一方の焦点にカメラとプロジェクタをハーフミラーを用いて配置する.これにより,投影画像を変えるだけで光源方向を自由に制御できる.また,試料のあらゆる角度への反射光は,カメラで一度に計測できるため,高速な反射率計測が可能となる.実際に計測装置を試作し,異方性反射特性を持つベルベットとサテンの反射率を計測したところ,光源のサンプリング間隔をそれぞれ1度とした場合でも,約50 分で計測できた.

受賞
  1. 第13回画像センシングシンポジウム(SSII07),優秀論文賞 “楕円鏡とプロジェクタを用いた反射特性の高速計測システム” 向川康博,角野皓平,八木康史,2008/6/12受賞.
発表
  1. Y.Mukaigawa, K.Sumino, Y.Yagi, “Rapid BRDF Measurement using an Ellipsoidal Mirror and a Projector”, IPSJ Transactions on Computer Vision and Applications, vol.1, pp.21-32, Jan., 2009.
  2. Y.Mukaigawa, K.Sumino, Y.Yagi, “BRDF Measuring System using an Ellipsoidal Mirror and a Projector”, In Proc. 11th Sanken International Symposium, Feb., 2008.
  3. Y.Mukaigawa, K.Sumino, Y.Yagi, “High-Speed Measurement of BRDF using an Ellipsoidal Mirror and a Projector”, In Proc. IEEE International Workshop on Projector-Camera Systems (PROCAMS2007), June, 2007.
  4. Y.Mukaigawa, K.Sumino, Y.Yagi, “Multiplexed Illumination for Measuring BRDF using an Ellipsoidal Mirror and a Projector”, In Proc. 8th Asian Conference on Computer Vision, pp.246–257, Tokyo, Japan, Nov. 18-22, 2007.
  5. 田川聖一, 向川康博, 八木康史, “複数光源の同時照明によるBRDF の高速計測”, 電子情報通信学会論文誌 D, vol.J92-D, no.8, pp.1393-1402, 8月, 2009.
  6. 田川聖一, 向川康博, 八木康史, “複数光源の同時照明によるBRDFの高速計測”, 第11回 画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2008), Jul., 2008.
  7. 向川康博, 田川聖一, 八木康史, “複数光源の同時照明による反射特性の高速計測”, 第14回画像センシングシンポジウム SSII08, 6月, 2008.
  8. 田川聖一, 向川康博, 八木康史, “複数光源の同時照明によるBRDF計測の高速化”, 情報処理学会研究報告, 情報処理学会, no.CVIM 163-12, pp.77-84, May, 2008.
  9. 角野皓平, 向川康博, 八木康史, “楕円鏡を用いた双方向反射率分布関数の高速計測”, 電子情報通信学会論文誌, vol.J90-D, no.8, pp.1930-1937, Aug., 2007.
  10. 向川康博,角野皓平,八木康史, “楕円鏡とプロジェクタを用いたBRDF計測のための照明の多重化”, 画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2007), pp.295-301, 7月, 2007.
  11. 向川康博,角野皓平,八木康史, “楕円鏡とプロジェクタを用いた反射特性の高速計測システム”, 第13回画像センシングシンポジウム SSII07, 6月, 2007.
  12. 角野皓平, 向川康博, 八木康史, “楕円鏡を用いた双方向反射率分布関数の高速計測”, 画像の認識・理解シンポジウム論文集(MIRU2006), pp.293-300, 7月, 2006.

日照変化を考慮した屋外シーンの分光反射率推定

近年,より正確な物体モデリングや物体認識を目的として,分光分布画像に関する研究が盛んに行われている.本研究では屋外シーンのモデリングの際に問題となる日照条件の変化を考慮して,シーンの分光反射率を推定する手法を提案する.本手法では,屋外シーンの照明を直接光である太陽光と周囲光である天空光の重み付き線形和であると仮定して,それらの関係を同一物体の日向と日陰部分より学習する.次に,学習した太陽光と天空光の関係に基づいてシーン中から同一反射率を持つ日向と日陰の組を抽出することで,それらの点の日照条件及び分光反射率を推定する.

発表
  1. 槇原靖, 野口裕之, 向川康博, 八木康史, “日照変化を考慮した屋外シーンの分光反射率推定”, 画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2006), pp.752–757, 仙台, 7月, 2006.[PDF]